名古屋高等裁判所 昭和63年(行ス)3号 決定 1989年9月01日
名古屋市西区上名古屋一丁目二番一一号
抗告人
山口治久
右訴訟代理人弁護士
森山文昭
同
渥美雅康
同
仲松正人
同
松本篤周
同
加藤美代
名古屋市西区押切二丁目七番二一号
相手方
名古屋西税務署長
山田太郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第一 本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方は別紙(二)の第一記載の各文書(主位的申立、予備的申立その一、同その二各記載の各文書)を提出せよ。」との裁判を求めるというにあり、抗告の理由は、別紙(一)及び別紙(二)の第二に記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
一 当裁判所も、民訴法三一二条に定める文書提出義務については、証人義務、証言義務に関する同法二七二条、二八一条一項等の規定が類推適用され、その結果、相手方税務署長は抗告人が提出を求めている本件「類似同業者」の所得税確定申告書及び所得税青色申告決算書(以下「本件申立文書」という。)の提出義務を免れると判断するものであって、その理由は、基本的には原決定の理由二、1記載の説示(原決定一枚目裏末行から二枚目裏二明目まで)と同様であるから、これを引用する。
次項以下に、抗告人の主張を採用することができない理由を敷えんして説示する。
二 抗告人は、文書提出義務を免れるような文書は、そもそも訴訟において引用すべきではなく、これを引用した以上は提出義務を免れない旨主張する。
しかしながら、訴訟において、当事者は、本来自由に主張立証をなし得るのであり、そのためには必要があるときは、訴訟に関係ある文書について言及し、あるいはその記載内容を引用して事実関係の主張をすることも自由になし得るのであって、抗告人の主張するように、文書提出義務を免れる文書は訴訟において引用してはならないとか、これを引用した以上は提出義務を免れないとか解すべきいわれは存しない。本件において、相手方税務署長は、抗告人につきなした推計所得額の主張について争われ、類似同業者による所得税確定申告書に基づく個人事業者の課税事績表を作成し、これに従い抗告人の推計所得額を主張しているものであるから、推計の必要性が認められるかぎり、その推計の正当性を明らかにするため、右類似同業者の申告書の内容について言及することは必要不可欠のことということができる。
そして、もともと、民訴法三一二条一号において、法が引用文書の提出義務を認めた趣旨は、当事者の一方が訴訟において文書の存在とその内容を積極的に主張することにより、その主張が真実であるとの一方的な心証が形成されるのを防止し、当事者間の公平を図るため、その文書を相手方の批判にさらすべきものとし、訴訟当事者の一方が現に当該文書を所持していて容易にこれを提出し得る場合に、他方当事者の申立によりその文書提出義務を認めたものであって、当該文書の所持者が守秘義務(その機能は後記四に記述するとおり)を負う場合にまでその文書の提出義務を負わせる趣旨のものとは解されない。すなわち、文書提出義務をもって守秘義務に優越するものとし、守秘義務を負う文書についても訴訟において当該文書を引用した以上、その提出義務を免れないとする見解には左袒することができない。抗告人の右主張は採用することができない。
三 抗告人は予備的申立として、本件申立文書の記載中、申告者及び税理士の住所・氏名・電話番号・事業所の名称・所在地・従業員の氏名等、申告者の特定につながる固有名詞の上に紙を貼って、これらを読めなくしたもの、あるいは、右固有名詞等を削除したものの写し(以下、これらを「本件削除文書」という。)の提出を求めている。そして、少なくとも、右のような削除文書の提出を命ずることは、文書提出命令制度の目的を、守秘義務との調和を図りながら可能なかぎり実現する方法として適当なものであると主張する。
しかしながら、抗告人が本件文書提出命令を申立てた趣旨は、本件削除文書の提出を得ることによって、「類似同業者」の業態等の具体的資料を明らかにしようとするものであると認められるところ、本件削除文書が右固有名詞等を削除したものであっても、これに右業態等の具体的内容が記載されておれば、それが抗告人と同一地区内の同業者の申告書であるだけに、その記載内容あるいはその筆跡等からして、当該同業者を特定し得る場合のあることは否定できない(本件削除文書の入手者が当該申告者を特定すべく努めれば、これを特定することは困難ではない)と考えられる。本件削除文書によっては当該申告者を特定し難たいはずであるとの見解には、にわかに左袒することができない。
したがって、相手方が本件削除文書を提出するときは、納税者の営業、財産等に関する秘密を漏泄する結果を招来することになることも否定できず、かくてはその守秘義務に違背することとなるから、相手方は本件削除文書についても提出義務を負わないものと解するのが相当である。この点に関する抗告人の主張は採用することができない。
四 抗告人は、以上のような解釈は訴訟における当事者間の公平を害する結果をもたらすものであって許されない旨主張する。
しかしながら、本件本案事件においては、相手方は、納税者である抗告人につき信頼するに足る帳簿等の提示が得られないとして、所得金額を推計して更正、決定し、その推計方法として抗告人と業種、業態等の類似するいわゆる類似同業者(抗告人の住所地である名古屋市西区の同業者一三名)の従業員一人当たりの売上金額、経費率等によってその所得金額を算出すべき旨主張しているものである。しかして、相手方は、抗告人に対する右更正、決定の適法性について主張立証責任があり、その推計の合理性を立証できなければ、右課税の適法性を証明できないものである。したがって、抗告人としては、まず、相手方の主張する同業者の類似要件(選定基準)や推計方法の点について推計の合理性を一般的に争うことが可能であって、同業者の所得税確定申告書、所得税青色申告決算書等がなければ、その推計の合理性を争うことが全くできないとか、これらの点に関する抗告人の反論、反証が著しく困難になるという性質のものではない。のみならず、抗告人は、本来、自己の所得の実額を立証することにより、推計課税そのものを争うことも可能かつ容易なはずであり、また、抗告人の個別、特殊事情を主張立証するなどの方法により、相手方の主張に対し十分反論、反証することもできるのである。
他方、相手方税務署長ないし税務職員が所得税法二四三条により負う守秘義務は、単に、納税者の所得に関する個人の秘密を保護するに止どまらず、これを全うすることにより、申告納税制度の適正な運用をみだすことを防止し、ひいては国の徴税権の行使ないし公共の利益を護る機能をも果たしているのである(右二四三条は、その違反に対して、二年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する旨規定している)。
したがって、右に述べた双方の諸事情を考慮すると、相手方に本件各文書の提出義務を認めないことが、許容し難いほど訴訟における当事者間の公平を害する不当な結果を招来するものということはできない。結局、右守秘義務の存在を主張して本件各文書の提出を拒む相手方の主張は理由があり、その提出を求める抗告人の申立は失当といわざるを得ない。
よって、抗告人の文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 浅香恒久 裁判官 窪田季夫 裁判官 畑中英明)
別紙(一)
一 原決定は、抗告人による本件文書提出命令の申立を却下したが、極めて不当である。抗告人の主張は原決定が引用したとおりであるが、原決定はこれに対するまともな判断を回避している。原決定の理由は以下に述べるように、まったく理由にならならないものである。
二 原決定は、「文書提出義務を免れるような文書は、そもそも訴訟において引用すべきではない」という抗告人の主張に対して、「本案事件で争点になっている推計課税の適法性の立証は、他の類似同業者による所得税確定申告の内容に触れずしてなし得ることはほとんど不可能というべく、推計の必要性が認められる以上、推計の合理性の主張、立証のため相手方が右の内容について言及することも許されないと解する根拠はまったくない」と述べている。
しかし、抗告人は相手方(本案被告)に対し、他の類似同業者の所得税確定申告の内容に言及することを許さないと言っているのではない。他の類似同業者の確定申告の内容に言及するのであれば、その確定申告書を提出するべきであると言っているのである。
三 このような抗告人の主張の趣旨は明確であるため、原裁判所も前記理由のみでは理由にならないことを承知していたのであろう。続けて、「相手方が本件で提出を求められているような原始記録自体を提出せず、これに基づいて税務署職員が作成した課税事績表をもって代える場合には、その証明力において差異が認められるのは当然であり、相手方においてこれを補充する他の立証方法を採る必要に迫られるのが通常であるから、右原始記録の提出を命じないからといって特に訴訟当事者間における不公平を招来することもない」とつけ加えている。
しかし、このような理由で文書提出命令の申立が却下できるのであれば、そもそも文書提出命令という制度の存在意義そのものが没却されてしまうであろう。すなわち、これを一般化すれば、相手方が理由なく文書の提出に応じない場合であって、それは提出した場合と比べて証明力に差異があるのであるから、特に提出を命じなくても不公平にはならないということになり、およそあらゆる文書提出命令申立事件において、文書の提出を命ずる決定を行なう根拠がなくなってしまうからである。
四 このように、原決定の掲げる理由がまったく理由にならないものであることは、もはやあまりにも明白である。したがって、原決定はただ単に、守秘義務があるから提出義務がないと言っているにすぎず、どうして守秘義務があると提出義務がなくなってしまうのか、まったく理由を述べていないという結果になってしまっている。この点に関する抗告人の主張に対しては、なんら答えていないのである。このことはとりもなおさず、本件文書提出命令を否定する根拠が乏しいことを示しているとすら言えるものである。
五 次に原決定は、抗告人の予備的主張(納税者の特定につながる固有名詞の部分を除いた他の部分の提出を求める申立)に対して、「現存しない文書を作成してその提出を求めること自体、そもそも文書提出命令の対象とするものではない」と判示している。
しかし、この理由は、抗告人がすでに批判した大阪高裁昭和六一年九月一〇日決定のまる写しにすぎず、抗告人の右批判に対しては何の答にもなっていない。すなわち、抗告人は現存しない文書を作成して提出するよう求めているのではなく、あくまでも請求の一部認容を求めているにすぎないのである(昭和六三年七月一五日付原告意見書(二)一六頁参照)。
六 原決定は、やはりこの点についても、右理由のみでは根拠に乏しいと考えたのであろう。右理由に加えて、「これら(納税者の特定につながる固有名詞のこと――引用者註)を削除しても、他の記載内容から当該納税者を特定することが不可能とはいえず、このような措置によって守秘義務を果たしたとはいい得ない場合が存すること、などに照らすと、申立人の主張するような写しについての文書提出義務を免れると解するのが相当」とも述べている。
しかし、「他の記載内容から当該納税者を特定することが不可能とはいえず、このような措置によって守秘義務を果たしたとはいい得ない場合が存する」などというような事実は、一切どこでも疎明されていないのである。原決定は、何らの証拠に基づくこともなく、相手方の主張を盲目的に鵜呑みにしたものであり、実に不公正かつ偏頗な決定であると言わざるを得ない。この点については、前記意見書一七頁以下に引用した大阪地裁昭和六一年五月二八日決定の判示こそ、最も経験則に合致した事実認定と文書提出命令の制度趣旨に関する妥当な基本的理解に基づき、公正な判断を示したものとして、今一度参照されるべきであろう。
七 しかも、さらに重大なことは、原決定は抗告人の主張をねじまげて判断しており、抗告人の主張の一部について判断を脱漏していることである。すなわち、抗告人は前記意見書一六頁において、「仮に、原本ではなく写しの提出を命ずることが、現存しない文書を作成して提出を命ずることになるのではないかと、あくまでもこだわるのであれば、納税者の特定につながる部分に紙を貼って、当該部分を読めなくした原本そのものの提出を命ずれば良い。このような方法は、刑事事件において、一部不同意となった書証を取り調べる際に通常よく行なわれているものである」と主張しているのである。このように、抗告人は写しではなく原本そのもの(一部に紙を貼って隠したもの)を提出することも求めている。それにもかかわらず原決定は、「写し」についての提出義務については判断をしているものの、この抗告人の主張(一部に紙を貼って隠した原本そのものの提出を求める主張)に対しては、何の判断も示していないのである。
八 以上のとおり、原決定はなんら説得力ある理由付けを展開しておらず、抗告人の主張に対して十分答えたものにはなっていない。それは、本件申立を却下する理由が乏しいからに他ならない。今こそ、民事訴訟法の原点に立ち戻り、勇気をもって相手方に対し、本件文書の提出を命ずるべきである。
別紙(二)
第一 申立の趣旨の整理
一 抗告人が提出を求めている文書は、次のとおりである。
1 (主位的申立)
本案訴訟(一九八七年(昭和六二年)(行ウ)第三八号)における一九八八年二月二二日付被告第二準備書面添付別表二に記載されたイからワまでの「類似同業者」につき、各一九八二年から一九八四年までの三年分の所得税確定申告書および所得税青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)
2 (予備的申立――その一)
本案訴訟(一九八七年(昭和六二年)(行ウ)第三八号)における一九八八年二月二二日付被告第二準備書面添付別表二に記載されたイからワまでの「類似同業者」につき、各一九八二年から一九八四年までの三年分の所得税確定申告書および所得税青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)の写し(申告者および税理士の住所・氏名・電話番号、事業所の名称・所在地・従業員の氏名等、申告者の特定につながる固有名詞を削除したもの)
3 (予備的申立――その二)
本案訴訟(一九八七年(昭和六二年)(行ウ)第三八号)における一九八八年二月二二日付被告第二準備書面添付別表二に記載されたイからワまでの「類似同業者」につき、各一九八二年から一九八四年までの三年分の所得税確定申告書および所得税青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)の原本の記載中、申告者および税理士の住所・氏名・電話番号、事業所の名称・所在地、従業員の氏名等、申告者の特定につながる固有名詞の上に紙をはって、これらを読めなくしたもの
第二 抗告人の主張
一 (主位的申立について)
既に繰返し主張したように、法が文書提出義務を定めた趣旨は、一方の当事者が当該文書を裁判所に提出することなく、その存在および内容を積極的に主張することにより、その主張が真実であるとの一方的な心証が形成されるのを防止し、当事者間の公平を図るためその文書を相手方の批判にさらすべきであるという点にある。
相手方(被告名古屋西税務署長)は、本件各文書を訴訟において引用しながら、守秘義務があるとの理由でもってその提出を拒否している。しかし、守秘義務があるからといって、前記文書提出義務が定められた趣旨が没却されても良いということにはならない。当該文書を訴訟で引用した以上、守秘義務を理由にその提出を拒むなどということは全く理不尽である。引用した以上は、正々堂々とその文書を法廷に提出して訴訟の相手方の批判にさらすべきであり、これこそ当事者公平の原則にもかない、採証法則にも合致するものであることは明らかである。
もし、守秘義務を理由として文書提出を拒むのであれば、相手方(被告名古屋西税務署長)はそのような文書を書証として引用するべきではなく、本件のような更正処分においては、誰から見ても客観的でかつ資料の出所が明確な統計数値を用いるべきであると考える。そのほうが訴訟当事者誰でもが納得できるし、守秘義務の問題が介在しないので当事者双方が攻撃防御を尽くすことができ、その結果、誤りのない真実を裁判所において認定することができるようになるからである。
この点について、原審でも引用した貴庁一九七七年(昭和五二年)二月三日決定(判例時報八五四号六八頁)は極めて説得力ある論旨を展開しており、その内容は妥当であると思われるので、ここに再び援用する。
二 (予備的申立について)
既に甲第一号証として提出したが、一九八九年一月二五日、鳥取地方裁判所は本件予備的申立――その一と同趣旨の申立を認容する決定を行なった。
右決定は、まず第一に、右のような写しの提出を命じても、当該申告者が特定され事業内容等につき調査を受けるような弊害が生じる具体的危険の発生を認めるに足りる証拠はないと判示している。誠に至当な判断である。この点については、原審でも引用した大阪地裁一九八六年(昭和六一年)五月二八日決定(判例時報一二〇九号一七頁、二二頁)も、全く同様の判断をしている。何の証拠にも基づかずこれらと正反対の判断をした原決定は、これら裁判例の傾向にも反する特異な決定であると言わざるを得ない。
前記鳥取地決は第二に、「以上のとおりとしても、文書提出命令の制度はもともと特定の原本が現存することを前提とするものであるからその作成がいかに容易であっても現存しない文書を作成したうえこの提出を命じることは文書提出命令の制度上不可能とも考えられる。しかし、前記1のとおり被告はもともと前記引用に係る本件青色申告決算書の原本を公平の見地から提出すべき義務があるにもかかわらず、前記2の守秘義務との関係でこれを免れるという特段の事情のある本件にあっては、右写しの提出を命じることはむしろ前記文書提出命令の制度の目的を、守秘義務との調和を図りながら可能な限り実現する方法として適当であり、かつ許容されるべきものというべきである」と判示している。誠に悩み抜かれた、立派な決定であると思う。
これ以外にも守秘義務と文書提出命令に関する裁判例を考察すれば、大阪高決一九七八年(昭和五三年)三月六日(判例時報八八三号九頁)は「秘密部分を特定し、理由を明示する等して提出命令を妨げる特段の事情を立証しない限り、単に……(中略)……企業の内部において秘密扱いにしているものが含まれていることをもって、当然にその提出を拒む理由とすることができない」と述べて、秘密部分の特定と理由の開示を要求しているし、また大阪地決一九七八年(昭和五三年)三月三一日(判例時報九〇七号八一頁)は「民訴法三一二条以下の規定による文書提出義務は当該文書の所持者に対する私法上の義務ではなく公法上の義務であり民事裁判における真実発見のため必要な書類を一定の要件のもとに提出させて裁判所の判断の資料に供させ、裁判の適正化に資せんとする目的を持つものと解せられるが民事裁判が当事者間における権利義務の確定を目的とするものであることや証言拒絶権との比較からみてもその提出によって公共の利益、秘密、第三者や当事者のそれらが不必要に侵害されることを防止する必要があるが、右のような問題は程度の問題と考えられるので夫々の事情を比較衡量して決められるべきものであろう」と判示している。さらに、刑訴法四七条の守秘義務に関する決定であるが、裁判所は公益の必要を考慮して守秘義務の範囲を具体的に画することができると判示した例も多数存在している(静岡地決一九八七年(昭和六二年)一月一九日判例時報一二三六号一三四頁、東京高決一九八七年(昭和六二年)六月三〇日判例時報一二四三号三七頁)。
このように、近時の判例(そして学説も同様)は、民訴法三一二条一号の解釈や、文書提出義務と守秘義務との衝突の関係についても、全てにオール・オア・ナッシングの処理をするのではなく、中間的な解決を模索しており、傾向としては、文書提出義務の範囲を拡大しようとしている。原決定は、これらの裁判例の流れと明らかに反するものである。
なお、本準備書面においては、予備的申立の内容を改めて整理した。しかし、抗告人が当初からこのような申立をしていることは、原審の記録上明らかなことである。それにもかかわらず、原決定がこの予備的申立――その二についての判断を脱漏していることは問題である。もし、写しの提出を命じることが文書提出命令の予定しないところであるという形式論にあくまでもこだわるのであれば、予備的申立――その二記載のような原本の提出を命ずれば良いのである。このことについては、既に原審における意見書(二)および当審における準備書面(一)で述べたとおりである。
原決定のように、形式論や文言の形式解釈で本件申立を却下するのは簡単であるが、実質と真実に基づき、貴裁判所の英断を望むものである。